十二国で人間不信になったJKをリハビリする下巻「月の影 影の海」

前回の「月の影 影の海」上巻に引き続き、下巻について書く。

上下巻を読み返しながら書いていたら

主人公・中嶋陽子の成長ぶりに魅せられて

ついつい他の章も気になって読み返してしまっていた。

一度ハマったら抜け出せない世界観、それが十二国記

小野不由美が書いた小説、「月の影 影の海」下巻

今回は「月の影 影の海」下巻についてぶっちゃけて書きたい。

一回にまとめるには内容が濃すぎるので

何回かに分けて書くかも。

重要なオチ的ネタばれを含むから

楽しみが薄くなるのがイヤな人は回れ右で。

十二国に迷いこんだJKの主人公とは思えない非リア充っぷり

まずは上巻のおさらい。

主人公(中嶋陽子)は、ちょっと厳格な両親を持った真面目なJK。

女の子なら出しゃばったりせず控えめで勉強もほどほどに。

外で駆け回って遊ぶなんてハシタナイ。

賢かった陽子は厳しめなしつけをちゃんと守って生きていた。

 

・・・が、十二国に流されてからは表紙のとおり。

 

平和な日本に育ち、ある日突然異国に連れていかれ

ひどい差別と迫害をうける。

異世界に特別な存在としてチヤホヤされるストーリーとは

一線を画するんじゃないかな。

 

主人公に特殊な力があるわけじゃないってところが現実的で

陽子の体には「ヒンマン」という謎のジェル状の妖魔が寄生している。

剣をあつかえる戦闘能力をもった妖魔で

戦っている時に陽子が目をつぶると妖魔も見えないから戦えない、

っていう、まばたき厳禁!?てリスクのある設定。

 

この世界での妖魔っていうのは、たいがい人を食べる。

怪しくて獰猛で危険な生き物。

しかも赤ん坊の泣きまねをして、たくみに人を誘い襲ってくる。

殺らなきゃ食われるっていう、死ととなりあわせの環境。

 

妖魔の気配が近づくと、陽子に寄生したヒンマンが作動。 

陽子の体力は普通のJKの体力・筋力のままだから

体がついてこない時もある。

筋肉痛と疲労に苦しみながら

家に帰ることだけを考えて半年もの間さまよいサバイバルしていた。

 

さらに陽子のメンタルに追い討ちをかけていたのが

十二国に流される直前、金髪の男に渡された剣。

それと、しゃべる謎の青いサル。

 

剣は妖刀のように、刀身に幻影を映す。

じつは大昔にやっかいな妖魔が封じられた武器で

幻影が暴れるために鞘にも呪がほどこされているのだ。

上巻の冒頭で妖魔に追われる際、陽子は鞘を失くしてしまっていた。

鞘はサルの化身となって剣をもつ陽子につきまとう。

そんなこととはツユ知らず、陽子は視覚と聴覚を惑わせられていた。

 

唯一の希望にしている故郷の両親やクラスメイトたちが

陽子をディスっていたりする光景を見せる刀身。

「真面目なフリして本当はロクでもない連中と遊んでたんだ」

「優等生ぶって嫌いだった、いなくなってせいせいした」

とんだ被害者なのに、ボロクソ言われて。

刃の幻影とともに、青いサルも陽子にささやく。

「帰っても誰も待ってないよ」

「お前が死んでも誰も気にしない」

と陽子の考えたくない事実をあざけるように言葉にして暴く。

 

現実かどうかもわからないまま、陽子は心をえぐられていく。

まだ16歳でキラッキラのJKにはキツすぎる非リア充っぷり。 

異世界に迷い込んだ主人公とは思えない扱いだ。

 

ほたほた半獣ネズミの楽俊登場「月の影影の海」ストーリーの転機

下巻の出だしは、主人公がドン底の状態。

陽子が飢えと過労と心身が傷だらけで雨ざらしになって

水たまりに頰をつけて道端に行き倒れている場面から始まる。

 


十二国記 第5話

↑「ほたほたネズミが登場」22:56ごろ。

 

倒れてるだけでも逝けるかも〜

最期にこの楽な死が待っているんだったら生きてたかいあったわ

なんて思うほど悲惨だった状況で

ガサガサと草を分けて近寄ってくる存在を

「村人か妖魔か、どれにしても悲惨な死の選択肢が増えるだけ」

と投げやりなところが裏切られ続けた主人公の絶望を表してる。 

 

食われるか殺されるか

絶望的状況で、目の前に現れたのは一頭の奇妙な獣。

 

ヒゲをそよがせて、ほたほたと二本足で歩くネズミ。

子供の背丈でトトロみたいに葉っぱを頭にのせている。

「だいじょうぶか?」

「すぐそこにおいらの家があるから」

と子供のような声でしゃべるネズミに陽子は命からがら拾われる。

 

アニメ版には原作にないキャラも一緒に十二国に流されてるけど

(ぶっちゃけ要らないです)

原作小説はたった一人で戦ってサバイバルしているから

このネズミが登場したときの安心感はハンパない。

 

ちゃんと名前があって楽俊(ラクシュン)という。

陽子もちょっとだけ警戒心が薄れてしまうカワイさ。

 


十二国記 第6話

↑青ザルとネズミとの間で葛藤する陽子。

 

だけど、人間不信になっちゃった陽子にとっては、ただのネズミ。

「どうせ裏切るぜ、さっさと息の根を止めろ」

「ひと思いに死んだほうがよくないか」

と青ザルはあおるが、陽子は動じずに

「誰も惜しまない命なら自分だけが惜しんでやる」

と親切なネズミを信用せず利用してやると開き直る。

 

命の恩人であるネズミに対して心を凍てつかせるが

そんな自分を悪党になれそうだと称する陽子は良心を捨てきれずにいるようだ。

 

若さと育ちの良さだな。

十二国でドン底を味わった結果、ただ者ではないJKになっていた

楽俊は半獣という存在で、

その生い立ちから十二国では子供の生まれ方の違いを知らされる。

赤ん坊は植物のように木にみのる。

という仰天の設定。

お母さんがうっかり間違えて半獣の木をもいだら楽俊が生まれたという。

(もげるものなら半獣をもいでみたい。)

  

陽子の流されてきた事情を聞かされた楽俊は

ただ事じゃないと判断して隣国の王に面会を求めようと提案する。

 

陽子が流れついた国は巧国(コウコク)で

異世界から流されてきた陽子のような人間は海客と呼ばれて迫害の対象だった。

12ある国の中には海客に寛容な国もあって

その一つが雁国(エンコク)だった。

 

楽俊は雁国へ陽子を連れて行き

ダメもとで雁国の王様である延王に相談しようと言う。

右も左もわからない陽子を心配してのことだったが

陽子は親切すぎる楽俊によけい警戒感を強くしていく。

 

物知りな楽俊から、陽子は十二国の仕組みを聞かされる。

世界には12の国があって12の王がいる

王は麒麟という神獣が選ぶ

それらは全て天帝が作った、と

 

地球が丸いという常識と違い、十二国の世界が平らなことに驚く陽子。

「平らじゃなかったら、みんな困るじゃねぇか」

と言う楽俊のリアクションはもっともだ。

(ちょっとほっこり。)

陽子の世界では人が女性のお腹から生まれると言う話に

「どうやって腹からもぐんだ?」「腹の外にぶら下がってるのか?」

と食いつく楽俊がw

ようやく訳の分からなかった異世界の新常識を教えてもらいながら

陽子の孤独なひとり旅は、気づけば二人になっていた。

 

警戒心丸出しの陽子と楽俊はギクシャクしながらも旅をする。

陽子は内心いつ裏切られるかビクビクしていたのだ。

そんな旅の途中、妖魔の襲撃に出くわす。

 


十二国記 第7話

↑ 1:51〜「ただ者じゃないJK」と良心の呵責の分かりやすい動画。 

 

コチョウという、陽子の学校も襲った巨大な鳥の妖魔が八羽。

一羽現れただけでも村が空っぽになるほど恐れられている妖魔だ。

陽子にしてみればいつもの日常だが、

楽俊も含めて街人たちは大混乱。

 

 逃げまどう人々を背に、

「・・・バカが」

この連中は無力すぎる、と陽子はあざける。

陽子を迫害して狩ろうとする人間が妖魔に狩られる悲鳴を楽しんでいた。

このスサみっぷり!

 

「陽子、むりだ!」

と叫ぶ楽俊に、心の中で『むりじゃない。』と余裕の笑みをうかべる。

ヒンマンがすでに体に馴染んだ陽子は

コチョウなんて楽なもんだ、と一羽ずつ殺戮に興じる。

 

陽子が注意を払うのは確実に息の根を止めて

できるだけ返り血を浴びないようにするということのみ。

剣なんか使ったことない!なんて

ムリムリ言ってたJKの面影なし。

 

楽俊が登場したことで主人公の異常性に気づいたのは読者も同じかも。

サエないJKは過酷な目にあってドン底を味わった結果

いつの間にやら、ただ者ではないJKになっていた。

ここは読んでいてスッキリする瞬間かもしれない。

 

十二国で人間不審になったJKは楽俊を助けるか殺すか、選択を迫られる

(↑原作の挿絵とアニメ版の楽俊はちょっとテイストが違う。)

 

八羽すべて殺しつくした頃には辺りは血の海。

我に返った陽子は連れを探すが

離れた場所に倒れた楽俊は血まみれ。

近寄ろうとすると役人が走ってくるのが見える。 

 

ここで陽子は選択を迫られる。

 

楽俊を助けるか、トドメをさすか。

生かしたら余計なことを役人に告げ口しないか。

トドメを刺して財布を奪ってきた方がいいのでは。

 

陽子は身のうちに天使と悪魔のささやきを聞く。

結局、どっちもできずに陽子はその場を逃げ去る。

 

一人で歩く道中、不安をしずめるように必死な陽子。

その心情は天使と悪魔のせめぎ合い。

『命の恩人を見捨てるのか』

『善意で助けてくれた訳じゃないし、裏切られてたかもしれない』

(この辺りは正直読んでいるのがツライ)

 

陽子の心境を見透かしたように青ザルが惑わせかき回す。

どちらかと言うと悪魔のささやき。

青ザルと言い合いになり、これまで抑制してきた感情がバクハツする。 

 

良心の呵責にさいなまれてた陽子は

楽俊に裏切られてもいいんだ、と自分の押し殺してた本音をぶちまける。

ずーっと頭の中で狭い枠にとらわれていた自分と決別する瞬間でもある。

 

楽俊を殺さなくてよかった、と心から思う陽子は

自分が人を信じることと、人が陽子を裏切ることには関連性がないと気づく。

自分が裏切り者の卑怯者の同類にならなきゃいい、と。

(陽子の開き直り方って秀逸だと思う。)

 

しつこく自分を惑わそうとする青ザルを剣で切り捨てると

青ザルは死んだのか、失くしたはずの鞘へと姿を変えた。

これは刀身の幻影を封じる鞘の呪がなくなってしまうことを意味しているんだけど

陽子のメンタル強化に一役買う存在だったみたい。

 

この剣の持ち主は代々、幻影と青ザルに惑わされて

身を滅ぼしてきたんじゃないかなと推測している。

打ち勝てたのは強いと思う。

 

思うんだけど、

青ザルって私たちの頭の中にもいる声だよね。

ネガティブな思考を見える化した存在。

陽子の青ザル(自分のネガティブ思考)との決着の仕方は

現代の人間関係に悩む若者からお年寄りにも参考になると思う。

裏切られたくないから信用しない、

とか考える人って世の中に多い気がするし。

私も似たような考え方に陥るときもある。

初めて読んだとき、ハッとさせられた。

 

上下巻読んでみると気づくんだけど

「月の影 影の海」上巻では十二国で人間不信になったJKをリハビリする下巻。

 って感じだった。

下巻のストーリーは序盤から大きな転換期を迎えて

さらに大きなタネ明かしがされていく。

 

この続きはまた次回に。

 

ホワイトハート版「月の影影の海」上下巻

最初に出版されたもの。

↑新潮社版「月の影 影の海」上下巻

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講談社版(挿絵なし)「月の影 影の海」上下巻

イラスト表紙が恥ずかしい!と言う層向け。

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活字が苦手ならアニメ(映像)が早い。

↑画集(第1集) 久遠の庭

美しい表紙イラストにトキメいたら。

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