今ここにいるという、自己肯定力を強める考え方。「パスポート学」

今日は最近読書した、ちょっと変わった本のネタバレを3分で解説していきたいと思います。今回はネタバレというより雑感が多めです。今日は予定があるので、ちょっと内容薄めにいきます。

「パスポート学」陳天璽大西広之・小森宏美・佐々木てる編著

私の心を熱くした本。2016年に出版された本です。マイナーな本なのに図書館で借りることができました。Amazonでも取りあつかってました。

「パスポート学」ってどんな本?100文字で説明。

「パスポート学」陳天璽・大西広之・小森宏美・佐々木てる編著

「パスポート学」陳天璽大西広之・小森宏美・佐々木てる編著

手続きすれば当たり前に発行できると思っているパスポートを通して、私たちが普段意識していない「国」のことを考えさせられる本です。複数の著者の体験談をもとに各国のパスポートの歴史についても書かれています。

読書したいと思った理由。自己肯定感を強める考え方

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パスポートについて詳しく知りたい人にはまとまっている本ですね。身分証明書や難民移民についてのリアルが書かれていますが、私が本を読もうと思ったのはそこを知りたかったわけではないんです。ネットサーフィンしているときに、たまたまこの本への寄稿らしきコラムを見つけて、強く共感したからなんですよね。とても胸に迫る内容で、このコラムを書いた、谷川ハウさんという方の文章を全部読みたいと思いました。

ベトナム難民の両親の元、私は日本で生まれ育った。(略)日本は血統主義のため、親が日本国籍でなければ、日本で生まれても国籍を与えない。ベトナム国籍を継承することもできず、生まれ育った日本の国籍も与えられず、私はどこに行っても外国人。国籍の所在は不明のまま、生まれてからの28年間、二つの国の間の網目からこぼれ落ちていたのだった。

日本の国籍を取ろうとする必要もないから、日本が血統主義だということをこの本で知りました。アメリカが多国籍で自由の国だということを耳にしても驚きもないんですけど、こういう事情を知ってなるほどすごいことだなって思います。

国籍の証明、国家による保護という意味をもつパスポートは、10代の私にとって到底手に入らないもの、憧れの対象だった。私はほかの人と違って、それをもつことができない。何をしたわけでもなく、生れ落ちて気づけばそういう状況だったのだ。
私はこの状況を肯定しようと努力した。その努力は逆に自分を屈折させもしたし、新しい世界に連れ出してくれもした。国家という後ろ盾なんかなくたって、自分はこれまで生きてきたじゃないか。自分の存在は、パスポートや国の後ろ盾のあるなしで肯定も否定もされない。ないものを望むのではなく、あるものを大事にすればいい。

こうして自身に言い聞かせながらも、自己矛盾を感じたのか、より突きつめて考えていく姿勢が続きます。やがて法務局国籍係に訪れてパスポートを取ろうと行動をするんですが、国籍法の条項を引き合いに出しても門前払いをされたそうです。大学院に行かれていて優秀な方のようですね。

自分は本気を出せば、挑戦すれば、国籍を取れるとどこかで思っていた。できるけど、あえて取らないだけ。そう思っていたから、強がることができた。(略)自分の境遇を〜肯定してから、私は初めて自分の境遇を恨み、誰を責めていいかもわからず、ただ悲しかった。

ここでだいぶ気を落とされたと思うも、著者はあきらめずに行動をやめません。なんと、パスポートなしで渡航を断行されます。もちろん、ドイツへ研究旅行という公式の理由やビザの準備をして。日本からは問題なく出航できるも、ドイツで待ったがかかります。

「これパスポートじゃないわね。じゃあパスポートはないの?」この質問に「YES」と答えた瞬間、突然、世界は姿を変えた。相手の笑顔は消え、疑いの目が私を突き刺した。私は国境警備隊のような背の高い男に連れられ、別の場所に移動させられた。(略)どの証明書もパスポートのような効力はなかった。
「あなたは誰なのか」「なぜここにいるのか」その質問に、ちゃんと答えることができない。眩暈とともに世界が揺らぎ、私の足元が波立ち始めた。

このあたり、若気のいたりという気がします。読んでいてハラハラしました。尋問をされて怖い思いをしながらご本人はやめときゃよかった、と後悔したそうです。ただ、理由は不明ですが幸運にも警備隊から"You are lucky"とゲートを通してもらえたそうです。

最後にその男は私に「結局、あなたの国はどこなの」と聞いた。疲れ切っていた私はただ「わからない」と答えた。わからない。長い間、なんども考えてきたけど、、どうしたって私はその質問には答えられなかった。答えられる人なんてどこにもいないのだ。

めっちゃ正直な人なのだろうと思いました。アイデンティティを知るために、自分自身と決闘しているように見えます。その後、就職をしてから最後のチャンスと思ってご家族で日本の帰化申請をし、見事パスポートを取得されたそうです。周囲の尽力があったことだろうと思います。著者の人間性が伝わってきそうです。その後は各国へ仕事で飛び回っても、空港では当然何も起こらず世界も揺るがなくなったそうです。“パスポートは不確かな世界に蓋をしてくれた”という表現が、ご本人の心境をとてもうまく表しているように思いました。

あんな思いはもう二度としたくない。だけど、その状況を悲嘆し、自分の存在の心許なさに揺らいでいたあのときですら、自分の奥底に「それでも私がここにいるということは誰にも否定できない」という小さな火がくすぶっていたことも、思い出した。揺らいでいく景色のなかで、ただそれだけが、あの時の私を確かに支えていたのだ。

やばい、心がふるえた。この自己肯定感の強い文章に惹かれて本を取り寄せたんですよね。すごい文章力あるなと感じました。

戦争アニメや映画を見るときに気づいた方がいいこと

この本に登場する著者たちは何らかの事情で国籍がなく、自分の「国」がどこかを書類上証明できなくて苦悩したことがあるそうです。私には国がない、というのは想像しにくくて、申し訳なくも、どうしても他人事なんですよね。

でも、たとえば日本が戦争にかかわることになって、各地で空から爆撃されたり、草の根的に銃撃戦が起こって国内に隠れる場所がなくなってしまったら。徴兵するルールができて、自分の親しい人が戦いに出されることになったら。身を守るために国外に逃げる人も出てくると思います。戦争になっている状況では、手続きをして国外に出る準備をしている間もないかもしれない。戦禍を逃れてたどり着いた先で平和に定住できても、生まれてきた子は出国先の手続きができないので無国籍。大きくなってから旅行や留学、仕事をするために海外へ行こう、となったときにパスポートが取れない!そこで初めて、自分が何人なのかというアイデンティティが揺らいで葛藤する。新しい世界に出ていこうとワクワクしていた気分が一気に興ざめする感覚だろうな。それって、誰のせいでもないし、誰のせいにもできないから、心の奥でものすごいモヤモヤをかかえることなんじゃないかと思いました。あくまでも想像の域ですけど。

戦後の日本のアニメって、戦争を美化してるとこがある気がします。ほんとに戦争が起こってたら、見たくもないでしょ。「なんで戦わなきゃいけないんだ」っていう葛藤しながらも戦わなきゃいけない矛盾、みたいな。逃げちゃダメだ!的なwなんやかんや、平和な証拠かなと思います。

ネットサーフィンしていて難民のニュースなどを見かけますが、戦争の落とし前って、後世の人間たちにまでひたすら及ぶんですよね。私も実家を継ぐはずの祖父の兄が衛生兵として出兵し、南鳥島あたりで病死したことで祖父が継いで父、私が生まれました。生還していたら自分は生まれなかったし、もっと実家が栄えてたんじゃないかとか思うこともあるんですけど、考えても仕方ないことです。“それでも私がここにいるということは誰にも否定できない”という芯のある言葉には、強い自己肯定力があって、それは今不幸な目にあってる人にとっても必要な考え方だと思います。前に進む勇気をもらえるようで胸を打たれました。

次回は、「私の仕事力を上げた本。」を書きたいと思います。

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